アートワークに寄せて
未来のノスタルジー“ジャポニズム”
Nostalgie du Futur “Le Japonisme”
アートワークに寄せて
福井真菜氏によるピアノ作品集、音によるジャポニズム、アール・ヌーヴォー、未来のノスタルジーというテーマを聞いて、浮世絵春画の手足の描写にインスパイアされ、あらゆる事物の関係性のメタファーとして自身のアート作品へと昇華させているアーティスト兼子真一がパッと浮かんだ。
かつてフランスの万国博覧会で、東の最果ての地より異文化が流入して、日本のアートに心奪われた往時に思いを馳せると、そのひとつとして浮世絵とフランスの人々との出会いがあった。多色の版による美しい発色はもとより、その独特な構図、解釈、どれも異国の人々を刺激するのに十分であったことは想像に固くない。
今回選んだ、兼子真一作品「色と花-四季-」は、江戸時代に描かれた月岡雪鼎(つきおかせってい)による名作浮世絵春画「四季画巻」に着想を得て描かれており、雪鼎が男女の交わりに花と性=命の遷ろいを重ね合わせたのに対して、兼子作品は現代の女性を意識して描かれている。現代技術ならではの美しい発色、そして兼子がダイナミックに捉えた構図、しなやかな手足は花(女性自身)と一体化し、現代女性の繊細さ、タフネスまで描き切っている。そして発色が原画の色調に対してPC上では光を透過するため更に鮮やかに見えるのは当然と言えば当然であるが大変興味深いことでもある。
今回の福井真菜氏が女性ピアニストであること、裸足でペダルを踏むアヴァンギャルドなスタイルで独特の”間”を創り出していること。そして画面に現れたいくつもの手足、それは同時にかつてこの音楽作品を生み出した作者、そして数々の名演奏がなされてきたこと、また未来の奏者へのオマージュでもある。過去、現代、未来へと引き継がれた芸術思想を音楽的に昇華させて福井真菜氏の音楽性、指先、足先にいたるまで繊細に表現されつくされた演奏は、きっと時間も超えて未来の人々へメッセージを伝えてくれることと期待が膨らむ。
一方、ビジュアル面でも兼子真一の描いた作品が海も超えてまだ見ぬ人へ何かを伝えてくれるフックとなればアーティストも我々も感無量である。
ピアノ集3部作として、兼子の作品の上には、デザイナーの藤本康一氏によってダイナミックに数字が配置され、クラシックにポップな視覚的要素が加わっている。その絶妙な彩度の色使いを用いることで品格を保っていることも付け加えたい。
3部作の流れで最後に余談だが、兼子が描いた同シリーズはタイトル内に「四季」とあることからもわかるように、月岡雪鼎と同様、実は4部作なのだが、今回は夏・秋・冬を採用している。いつの日か、ジャポニズムシリーズが出る折にはぜひもう一作もお目にかける機会があれば幸いである。
正木なお(クリエイティブ・ディレクター)



兼子 真一
KANEKO Shinichi
現代アーティスト

浮世絵春画に描かれた絡み合う手足をモチーフに、世界を形作る「関係」のあり方を探求しながら作品を制作。彫刻、絵画、ドローイングなど多様な手法で表現している。
主な展示として、画廊宮坂(2005~2025)、代官山蔦屋書店(2022)、国登録有形文化財・旧近藤邸(2013)、由布院アートホール(2011)などで個展を開催。また、MEET YOUR ART FESTIVAL (2024)、東アジア文化都市-中日韓彫刻招待展(2023)、3331 アートフェア(2021)、アートフェア東京(2016)、イギリス彫刻展「Fresh air」(2013)。また、2018年より現在まで焼酎ブランド iichikoの雑誌広告に80点以上ドローイングが採用されている。
東京藝術大学デザイン科卒業(1999)
東京藝術大学大学院美術研究科デザイン専攻修了(2001)
正木 なお
Nao Masaki
Curator / Creative Director / Founder of Gallery NAO MASAKI

子供の頃から格差などの社会問題に意識が向き、高校時代から社会運動に10年ほど関わるが、社会変革には個々の感性の成熟の必要性を感じる。2004年名古屋八事に骨董から日本の工芸、石やガラスの破片などを扱うセレクトショップ「生活装飾 Life deco」をオープン。日々の暮らしに新たなものの見方を提案する。
2005年に「gallery feel art zero」を開廊。何もないゼロの状態(知識で判断をしない)で作品と対峙し感受するアート体験の場を創る。2018年「Gallery NAO MASAKI」に名称変更。アートフェアへの参加をはじめる。企画した展覧会は自社のスペース内外で2025年現在160回を越える。2024年5月名古屋のスペースをクローズ、芸術の本質とは何かという問いと実験を続けている。
ギャラリストとしてだけでなく空間ディレクターとして、店舗デザイン、アートコーディネイト、グラフィックなど総合的にディレクションを行いアートのある空間を作り出している。近年ではアートと社会のコミュニケーションにも興味が及び、パブリックアート・イベントなどのディレクションも行う。
2024年 パルコ出版設立50周年記念事業「One Page BOOKSTORE-1ページの本屋-」(渋谷パルコ)クリエティブディレクター
2022年 GREEN SPRINGS 2022 WINTER INSTALLATION (立川)クリエティブディレクター
2020年 Midland Square Christmas 2020(名古屋)アートディレクター
2019年 Midland Square Christmas 2019(名古屋)アートディレクター
2018年 竹田市 アート・クラフトフェア選考委員
2018年 ART SHODO TOKYO 審査委員
2017年 灯しびとの集い選考委員
2016年 UNESCO創造都市ネットワークフォーラム「food x design」イベントクリエイティブディレクター
2016年 瀬戸市新世紀工芸館 特別講師
2014年 ナゴパル文化祭2014 クリエイティブディレクター
2013年 ナゴパル文化祭2013 「パルコの庭」 総合ディレクター