La Rencontre ─ めぐり逢い ─ 後藤浩二

La Rencontre ─ めぐり逢い ─

後藤浩二

ストリミーング

制作現場紹介

RME Users(導入事例):後藤浩二『La Rencontre』

ピアニスト後藤浩二が紡ぐ12の短い物語 〜 白柳龍一(音楽ジャーナリスト)

 後藤浩二が7年ぶりにリリースしたソロ・アルバムは自作の “Nocturne” という曲で始まる。鍵盤に置かれた彼の左手が、草原を走る夜行列車の揺れのようにゆっくりとしたリズムを刻む中で、右手は遠ざかる窓外の景色を静かに、淡々と描き出していく。マイナーコード(短調)を基調としながら、そのすき間にメジャーコード(長調)が微妙に絡み合う音楽は、夜の闇に低くたれ込めた雲の間から、時おり淡い月の光が射し込むようで、限りなく美しい。やがて、東の彼方から昇り始める太陽の光を感じさせるように、曲は柔らかなメジャーコードで閉じられる。この和音がためらいがちに響いたとき、私たちはピアニストが紡ぐ12の短い物語を読み進める準備ができているのである。

 後藤のピアノ演奏は、他者を思いやる心構えが備わっているひとの語り口である。強烈な自己主張があふれる音楽が多いなかで、彼の演奏は聴き手の心象風景に寄り添いながら、濁りの無い透明感あふれる明晰なタッチで鍵盤の上に色彩豊かなスケッチを描いていく。その洗練された技法はほとんど天才的なものだ。

 そんな彼が、1曲だけ自分の感情を露わにしたような演奏がアルバムの前半にある。ビル・エバンス晩年の傑作、”We will meet again” だ。エバンスが最愛の兄の死に際して書いたこの曲で、後藤は彼自身が立脚するジャズというイディオムを駆使して他の作品よりも少しだけ饒舌に語りかける。それは、言うまでもなく不世出の大ピアニストへの強いオマージュの表れなのだろうが、もしかしたら後藤自身の中に、この曲に対する何らかの強い感情移入があったのかもしれない。

 この演奏につづく自作の ”La Recontre”(フランス語で “めぐり逢い” )は、前の曲で昂った感情の波をクールダウンさせるようなイントロから始まり、後半ではほとんどショパンを弾いているように華麗なピアニズムが展開する。それはまるで、エバンスが旅立った彼岸から、私たちが生きている此岸へ聴き手を引き戻すような決然とした意志の力を感じさせる演奏で、この曲をアルバム・タイトルに据えた後藤のコンセプトが彼のプレイを通して明かされたように見える。新たな人々とのめぐり逢いへむけての出立…。

 後藤浩二の最新作 “La Recontre” のラストを飾るのは ”Two for the road” 。オードリー・ヘップバーンが主演した映画「いつも2人で」の主題曲で、ヘンリー・マンシーニの作品だ。初めはとても仲が良かったのに、結婚後12年経って次第に噛み合なくなった夫婦が、過去を振り返りながら2人の関係を再生させていく大人の恋物語。後藤は原曲の美しい旋律を優しく慈しむように、静かに祈るように歌い上げていく。後藤が私たちに読み聞かせてくれた12の短い物語は、恢復と再生へ向けた祈りの中で静かに幕を下ろす。

(ライナーノーツより)

後藤浩二(Piano)

後藤浩二

(Piano)

1973年名古屋市生まれ。父親の影響で4歳よりピアノをはじめ、南山大学入学と同時にジャズに傾倒、在学中より演奏活動を開始。
2002年より毎年のようにオリジナルアルバムを発表、2004年には小曽根 真プロデュースによる、伊藤 君子(Vo)のアルバム『一度恋をしたら〜Once You’ve Been In Love』(2004年/ビデオアーツ・ミュージック)に4曲参加。年々活動の幅は広がり2007年にはハービー・メイソン(dr)をプロデューサーとして迎えブラッド・メルドーの右腕、ラリー・グレナディア(b)とニューヨークで制作されたトリオアルバム『hope』(2007年/ビデオアーツ・ミュージック)は大きな話題となった。
またジャズヴォーカリストからの信頼は絶大で多数の作品に参加、クラシック音楽の演奏家との共演も多く、宗次ホールでのコンサートの模様を収録したアルバム『後藤浩二 ソロコンサートwith ストリングス』(2009年/爽健美舎SKB)をリリース。現在はTV- CM出演やラジオのパーソナリティとしての活動もこなしながら、名古屋を拠点に国内外で精力的に演奏活動・作曲活動を続けている。

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